もっと介護職の話をしよう もっと介護職の話をしよう

岐阜県の介護業界の未来を担うのは、
志を持った学生、現場で働くプロフェッショナルのみなさんの存在です。
そうした方々に着目し、あらゆる角度から、
介護の仕事と学びについて考えていきます。

お話を伺った方

公益社団法人 岐阜県理学療法士会
理事
社会局長
専門理学療法士(生活環境支援)
岸本泰樹さん

岐阜県内の医療・福祉・保健職場で働く理学療法士の職能団体。理学療法士の仕事は、超高齢社会の進展とともに医療分野のみではなく、介護予防分野にも職域が広がっています。平成25年より公益社団法人となり、県からの業務委託のほか、市町村主体の地域包括ケアシステムや介護予防事業に関する連携にも力を入れています。

求められる「自助」と「互助」の考え方

厚生労働省(以下、厚労省)が考える「介護予防」とは、単に高齢者の運動機能や栄養状態といった個々の要素を改善し、介護を予防するというものではありません。ここからさらに、生きがいや自己実現のための取り組みを支援し、生活の質の向上を目指すものです。この意味で、既に要介護状態にあっても現状維持や改善を目指し、自立につながる支援をする「自立支援介護」も、同じ理念に基づいて行われているといえます。

また、厚労省は、地域で生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築が必要であり、それを支える考え方で「自助」と「互助」が大切だとしています。自ら健康管理を行い(自助)、家族や友人、地域で助け合っていく(互助)。少子高齢化や厳しい財政状況から、税など公の負担でまかなわれる「公助」や「共助」の拡充を期待することは難しいからです。

この考え方を実際の介護予防の取り組みに落とし込むと、理学療法士をはじめとするリハビリ職が行う施術やサービスに一つの方向性が出てきます。それは「運動の具体的な目的を、日常生活の動作に重ね合わせる」ということです。私の職場は、国が定めた「通所型サービスA」という種別で、緩和された基準によるデイサービスを行っていますが、その内容で特徴的なのが「買い物支援」です。スーパーの中にテナントとして施設が入居し、職員が利用者様と一緒に回って買い物をサポートします。買い物をするには、棚の上まで手を伸ばしたり、品物をカートに載せる必要があります。カートをレジまで押していかねばなりません。このような日常生活で必要となる買い物の各動作で、何に不自由を感じているか、それを認識した上で介護予防の運動を施設で行っているのです。

「多職種連携」で生活シーンをサポート

ひと昔前は、介護予防のために体を動かしても、その先の日常生活になかなか結び付きませんでした。入所・通所を問わず、どの施設でも運動すること自体が目的となっていたわけです。しかし、明確に日常生活で行う各動作に結び付けることで、自分が「こうありたい」という目標像が思い描けるようになります。運動を行うモチベーションアップにもつながるのです。

平成25年に厚労省から出された通知で、従来、理学療法士は医師の指示の下で仕事をしてきましたが、介護予防事業等ではその指示がなくても仕事ができるようになりました。この理学療法士一人ひとりの創意工夫が活かせる環境が整ってから、介護予防の取り組みがより多彩に展開できるようになりました。同時に作業療法士、言語聴覚士などリハビリ職全体が連携、いわゆる「多職種連携」で、利用者様の生活シーンに合わせて取り組む傾向が顕著になりました。

例えば「食べる」という行為を介護予防の視点でサポートすると、嚥下にかかわることから言語聴覚士の仕事領域になります。これを生活シーンで考えると、食べるための正しい姿勢を保つサポートは理学療法士の領域です。背もたれから背中を離して、テーブルの上の茶碗に手を伸ばすことへのサポートには作業療法士の領域もかかわってきます。つまり、一人ひとりの生活シーンを想像すれば、専門職の枠組みを越え、広く多種多様な知識が必要となってくるのです。これは看護師や栄養士、介護福祉士も同様であり、チームで介護予防にかかわっていかねばなりません。また、例えば理学療法士の視点だと、ひざを軽く曲げたまま歩くスタイルは、まっすぐ伸ばす機能が損なわれる恐れがあり、すぐ指導したいと考える状態です。もし散歩に連れ出す介護福祉士に少しでもその知識があれば、すぐに理学療法士に報告してもらえ、早期の指導につながるのです。

柔軟な発想で新たな取り組みを

この多職種連携が進む中でも、これまでと変わらず気をつけねばならないのが、利用者様の目線に立つということです。どうしてもサポートする側が優位になりがちで、できると思い込んで利用者様に動作を求めてしまうことがあります。サポートする側と利用者様の間だけではなく、利用者様自身ができると思っていた動作が実際にはできなかったということもあります。こういった乖離をなくしていくことが、長く介護予防に取り組んでいただく秘けつかもしれません。

最近の具体的な取り組みとしては、私たちが行う「買い物支援」のほかにも、施設内の畑で農作物を育て、収穫するという介護予防のデイサービスを提供するところもあります。ある自治体でも、耕作放棄地を活用して農作業を行うことで介護予防につながらないか、と考え始めているようです。これらの日常生活の延長線上にある介護予防サービスには需要が期待されていますが、社会資源として見ると、まだそのサービス提供の場が少ない状況です。今後、多くの事業者の参入が期待される分野となっています。
一方で最近、介護を学ぶ高校生が介護予防のための体操を考案しました。私たち理学療法士会が監修させていただきましたが、こういった新しい息吹ももたらされています。この体操には東洋医学的な発想が盛り込まれ、理学療法士だけの視点ではなかなか思いつかない内容であり、一つの多職種連携事例と言ってもいいでしょう。

この高校生の発想が良い例ですが、今後の介護予防の取り組みには柔軟性が求められます。多職種連携でもっとユニークな介護予防のスタイルが生まれてもいいと思います。介護業界は、働く人の創意工夫がいかされる機会に恵まれています。若い人たちにその魅力を知ってもらい、どんどん介護の世界に飛び込んでほしいですね。

公益社団法人 岐阜県理学療法士会

〒500-8384 岐阜県岐阜市薮田南1-11-12 岐阜県水産会館 601号

TEL・FAX 058-277-6166

HP https://gifu-pt.jp/
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