岐阜県内初の盲養護老人ホームが2021年5月に誕生

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岐阜県の介護業界の未来を担うのは、
志を持った学生、現場で働くプロフェッショナルのみなさんの存在です。
そうした方々に着目し、あらゆる角度から、
介護の仕事と学びについて考えていきます。

お話を伺った方

社会福祉法人 杉和会
盲養護老人ホーム 優・悠・邑 和(なごみ)
施設長 吉澤進治さん

杉和会が運営する特別養護老人ホームの統括部長を経て、2021年5月から現職。介護福祉士、認知症介護指導者の資格を持ち、これまでの経験を盲養護老人ホームでの支援業務に生かしています。

盲養護老人ホームとは

視覚障害のある高齢者の方が入所する社会福祉施設。介護保険が適用される特別養護老人ホームとは性格が異なり、家庭環境や経済的な理由で在宅生活が困難になった方を「措置」という形で養護し、自立を支援します。対象年齢はおおむね65歳以上。視覚障害のある入所者の数が定員の7割を超えるよう老人福祉法で定められています。

高齢でかつ視覚障害のある方のセーフティネット

介護職員として働いている人や、福祉について勉強している人でも、「盲養護老人ホームを見たことがない」という人は多いかもしれません。それもそのはず、高齢でかつ視覚障害のある方が入所する盲養護老人ホームは全国に約50施設しかなく、岐阜県には2021年5月に当施設がオープンするまで、存在していませんでした。盲養護老人ホームは、自治体が入所の可否を判断する措置施設という性格上、法律による規制が厳しく、経営も難しいからです。しかし「岐阜県で措置対象になった視覚障害者の方は、愛知県など他府県の施設に入所するケースが多い」「困っている方が地域に少なからずいる」という実情を知った当法人の若山宏理事長が一念発起。構想から3年をかけて、岐阜県内初の盲養護老人ホーム「優・悠・邑 和(なごみ)」を開設するに至りました。
緑豊かな山々に囲まれた「優・悠・邑 和(なごみ)」は、木の温もりを感じる平屋造りで、延床面積2866平方メートル。通路をできるだけ直線にして生活動線をわかりやすくする、手すりに点字案内板を付けるなど、視覚障害のある方の安全に配慮したさまざまな工夫を施しています。また、定員80床(2022年度は30床で運営)の居室は全て個室ですが、入所者様が部屋にこもりきりにならないよう、共用スペースを多く設けました。本格的な仏壇を備えた和室はその一例。毎朝8時30分になると、みんながここに集まって一緒にお経を上げ、ラジオ体操をするのが日課になっています。職員はあくまでも入所者様を支援する立場で、食事や入浴を見守ったり、散歩に付き添ったり、話し相手になったり。お一人おひとりの心身状況や生活習慣、個性などを理解して、その時々で必要なサポートを行っています。

  • ▲明るく開放的な食事スペース
  • ▲手すりの点字案内板によって今自分のいる場所が把握できる
  • ▲お経は自由参加だが、毎朝多くの入所者が集まる

▲「杉和会にとって大きな挑戦だった」と語る吉澤進治さん

盲養護老人ホームには、高齢者ケアの原点がある

人間が五感で受け取る情報のうち、8割は視覚から入ってくるものだそうです。だから、目が「見えない」「見えにくい」方はどうしても情報弱者になってしまう。花の名前1つをとっても「聞いたことはあるけれど、実際に触れたことがない」というエピソードがとても多いのです。また、盲養護老人ホームの入所者様はそれまで生活上の困難を抱えていたために、精神的に不安定な方も少なくありません。そういう方たちをどのようにサポートし、信頼関係を築いていくか。開設以来、職員同士で話し合いながら試行錯誤してきました。いまだ取り組みのさなかですが、改めて気づいたことがあります。それは傾聴の大切さ。傾聴とは、相手の話に耳を傾け共感を示すコミュニケーション技術です。傾聴を重ねると、入所者様の表情がだんだんやわらかくなり、「本当はこう思っている」「こんなことがしたい」と胸の内を明かしてくれるようになります。「視覚障害があるから、すべてにおいて手助けが必要だろう」という思い込みを押し付けることは、適切な支援ではありません。入所者様の気持ちを尊重し、できることはどんどんご本人にやっていただく。傾聴こそが、入所者様の残存能力を最大限に発揮する関わりにつながるのです。そして、このことはあらゆる介護サービスにも共通する大切な姿勢だと言えるでしょう。誰にでもできるけれど、誰にでもできる仕事じゃない。盲養護老人ホームには、高齢者ケアに携わる人が忘れてはならない原点があることを痛感します。
私たちがここで得た気づきや学びを、より多くの人に伝えていくことが今後の目標。盲養護老人ホームの措置に対する理解を促進するとともに、困っている高齢者の方を制度や分野の枠を超えて地域で支えられる仕組みづくりに貢献したいと考えています。


▲全個室なので、ゆったり過ごすことができる

▲職員は全員、視覚障害者福祉協会の同行援護研修を受講している

社会福祉法人 杉和会(グレード1)
盲養護老人ホーム 優・悠・邑 和(なごみ)

〒503-2103 岐阜県不破郡垂井町梅谷621-1

TEL:0584-22-3780
FAX:0584-22-3782

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