18歳で介護福祉士資格を得る福祉系高校という選択。

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岐阜県の介護業界の未来を担うのは、
志を持った学生、現場で働くプロフェッショナルのみなさんの存在です。
そうした方々に着目し、あらゆる角度から、
介護の仕事と学びについて考えていきます。

お話を伺った方

岐阜県立岐阜各務野高校
福祉科主任 小又友樹教諭(写真中央)
谷本愛実さん(福祉科ケアワーカーフィールド3年生・写真左)
河村聖さん(福祉科ケアワーカーフィールド3年生・写真右)

はじめに

介護福祉士になるにはいくつかの方法がありますが、福祉系高校で学ぶのが年齢的に最も早く資格を得る方法といえます。 福祉系高校で学ぶ生徒たちは、なぜその道を選び、どんな高校生活を送っているのでしょうか。そして卒業後の進路は?福祉科を設けている県内3校のうちのひとつ、各務原市の岐阜各務野高校を取材しました。

介護福祉士国家資格試験の10年連続全員合格をめざして。

1月下旬、岐阜各務野高校福祉科ケアワーカーフィールド(コースのこと)の3年生が学ぶ教室。そこには数日後に控えた介護福祉士国家試験に向けて、黙々と勉強に励む生徒たちの姿がありました。実習室では、2年生がタブレット端末も活用しながら、真剣な表情で移乗介助の実技練習に取り組んでいます。
同校は9年連続で介護福祉士国家試験の受験者全員合格を達成(2021年1月末時点)していて、福祉系高校としては全国でもトップレベルの実績を誇ります。「実績を生む最大の要因は、学生一人ひとりの努力にほかなりません。みんな入学前から『国家資格を取得して福祉の道へ』という志を抱いています。同じ目標を持った仲間の存在も大きいですね。互いに支え合えるからこそ、がんばれるのでしょう」と福祉科の小又友樹先生は話します。
一方で、クラブ活動も盛んな同校。勉強と両立しながら、全国大会出場を狙う運動部で練習に打ち込む生徒もいます。学校行事も、文化祭や体育祭、球技大会のほか、先輩や後輩との交流を深める福祉科独自のデイキャンプなどユニークな行事があり、生徒たちの生活にリズムを与えています。


▲3年生の教室。この日は介護福祉士国家試験対策の補修授業や自習が行われていた。


▲2年生の実習の様子。タブレット端末は学生同士の実技の確認などに活用している。


▲「福祉科の生徒たちは、忙しくも充実した学校生活を送っている」と話す小又先生。

「現場のリアル」も経験しながら知識や技術、福祉観を身に付けていく。

岐阜各務野高校福祉科は、1年次に社会福祉に関する基本的な知識や技術を幅広く学び、2年次から高齢者福祉が中心の「ケアワーカーフィールド」と、保育が中心の「子ども福祉フィールド」のどちらかを選択できるのが特徴。ケアワーカーフィールドに進むと、所定の必要な科目の単位が修得できた3年次の修了時に介護福祉士の受験資格が得られます(実技試験は免除されるため、筆記試験のみ)。
では、福祉系高校で介護福祉士をめざして学ぶメリットとは何でしょうか。「一番はやはり、一生ものの国家資格を高校卒業時に得るチャンスがあること。取得すれば、就職をはじめ、その後の人生に強い味方となってくれるはずです。また、福祉系高校のカリキュラムとして定められている455時間以上の校外実習を経験することで、現場のリアルを学び、より豊かな福祉観を身につけながら人間的に成長できるのも福祉系高校の魅力です」と小又先生。生徒たちは学年が上がるにつれ、言葉使いやあいさつの仕方ひとつをとっても見違えるようになっていくのだそう。加えて「高校は国の制度によって授業料が無償化されている(私立高校の場合は所得制限あり)ので、大学や専門学校などと比べて、資格取得にかかる費用を抑えられるのも大きなメリットだと思います」と小又先生は話しました。


▲校外実習の様子。さまざまな種類の介護施設で現場のリアルを学ぶ。

ICT活用と地域連携でコロナ禍でも学びを止めない挑戦。

2020年度は新型コロナウイルスの影響で、教育現場に大きな変化が起こった1年でした。岐阜各務野高校福祉科でも休校期間中にオンライン授業を導入。対面授業が再開されてからも、教職員が知恵を出し合い、感染防止対策を図りながら学びを止めない取り組みを進めてきたといいます。しかし、介護福祉士の養成には豊富な校外実習や対面での実技指導が欠かせず、「コロナ対策との両立は切実な課題」と小又先生は打ち明けます。その一方、改めて介護施設をはじめとする地域のつながりや支援、生徒に対する期待を実感したとも。「どの施設も大変な状況の中、実習を受け入れてくださり、6回のうち5回の校外実習を行うことができました。中止を余儀なくされた一部の実習内容を補うために、急きょ外部講師を引き受け、学校で現場での取り組みを指導してくださった方や、生徒主体で行う介護実習報告会にオンラインで参加してくださった方もいます。感謝の気持を忘れず、これからも地域と連携しながら、生徒が充実した学びを維持できるよう努力していきたい」と小又先生は意欲を示しました。
3月に卒業を迎える岐阜各務野高校福祉科ケアワーカーフィールドの3年生29名は、7割が介護施設などに就職、3割は社会福祉士などの資格取得や医療職をめざして上位校へ進学する予定。たくさんの思い出と希望を胸に、春からはそれぞれの新しい道を歩み始めます。


▲地域交流にも積極的に取り組む。各務原市社会福祉協議会と連携して中学生に実施している寺子屋授業(上)、各務原市の協力のもとで行っている認知症模擬訓練(下)。

在校生の声

河村聖さん(写真左)

子どもが好きで、将来は保育士になりたいと思い、岐阜各務野高校に入学しました。でも、1年次に実習で訪れた介護施設で、利用者様とふれあう楽しさや仕事のやりがいを味わい、進路を変更。2年次からのコース選択でケアワーカーフィールドを選びました。
介護福祉士を目指す勉強は、食事や入浴、排泄などの介助だけでなく、心と身体のしくみや医療的ケア、コミュニケーション、社会保障制度など、内容が多岐にわたります。国語や数学、英語といった普通教科の授業もあるので、定期テストの時は大変でしたが、友だちと励まし合いながら乗り越えました。また、先生と生徒の距離が近いので、ささいなことでも質問や相談がしやすく、恵まれた環境だったと思います。卒業後は有料老人ホームで働く予定。高校で学んだことを糧に、利用者様の気持ちに寄り添える存在になりたいです。

谷本愛実さん(写真右)

私には生まれつき障害のある2歳上の兄がいます。コミュニケーションが難しい兄のことをもっと理解したい、障害について学びたいと思ったことがこの学校を選んだきっかけでした。入学時は将来について具体的なイメージを持っていませんでしたが、さまざまな施設で実習を重ねながら学びを深める中で「病院のチーム医療に介護福祉士として携わりたい」と考えるように。その夢を叶えるべく、春から神経難病などの患者様が多く入院・療養されている県内の国立病院機構に就職する予定です。
岐阜各務野高校は私にとって、自ら目標を見つけ、それに向かって努力することの大切さを教えてくれた場所でした。福祉系高校に進んで本当によかったと実感しているので、介護や福祉を学んでみたい人はぜひ候補に入れてください。

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